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La misma luna 同じ月の下で

メキシコ映画 (2007)

アドリアン・アロンソ(Adrián Alonso)が『レジェンド・オブ・ゾロ』で世界に名を知られ、その後、主演した唯一の作品。メキシコからの不法移民問題を、アメリカに不法入国して長年別れたまま働く母と、身寄りを亡くし母に会いにアメリカに不法入国する息子の2人に焦点をあてて描く感動のドラマ。『母をたずねて三千里』の現代版か? 撮影時12才くらいのはずだが、役柄は9才の少年。小柄で童顔なので違和感はあまりない。

9歳の誕生日を迎えたカリトス。アメリカで働く母からプレゼントが届き、一緒に暮らす病気の祖母がパーティを開いてくれることになっている。その日は、毎週日曜10時にかかってくる楽しみな電話の日でもある。母は、4年前にアメリカに不法入国し、以来一度も帰らず働いている。4年前といえばまだ5歳の時だ。父は産まれた時からいない。祖母と2人暮らし、そして、週1回母から電話があるだけの寂しい家庭環境。いつかはアメリカに行って母に会いたいと、母には内緒で知り合いの密入国業者のおばさんの「店」で働いて、お金を貯めている。ところが、誕生日の翌々日の朝、カリトスが起きると、肺の具合が悪かった祖母が冷たくなっている。彼にはもう親類はいない。そこで、先日おばさんの事務所に「越境の手伝い」をしたいと言いに来て追い出された素人のカップルを訪れ、お金を渡して密入国を試みる。自動車内の小さな穴に体を押し込まれ、国境の検問所へ向かう。一番緊迫する場面だ。徹底的に調べられOKになった途端、アメリカでの駐車違反の罰金未払いが判明し、車は罰金を払うまで没収されてしまう。カリトスは、夜、車から抜け出し、国境に接した町のバスターミナルまで歩いて行く。そして、母の暮らすロス行きの長距離バスの切符を買おうとして、旅費を落としたことに気付く。居合わせた怪しげな若い男に100ドルあげると頼み、検問所脇の駐車場まで戻ると、車はもう引き取られて、いない。100ドルの代りに身売りされかけたカリトスだが、幸いメキシコからの不法入国者を助けているおばさんに救われる。そして、その中のボス的存在の男にロスまで連れて行ってもらえることになる。途中、トマト農園で収穫を手伝っている最中に、入管の手入れがあり、急いで隠れたカリトスと、カリトスを敵視していたエンリケの2人だけが助かる。そこから2人の珍道中が始まる。カリトスを嫌っていたエンリケだったが、カリトスのひたむきさと純粋さに心を和らげ、最後には、一緒にロス行きのバスに乗ってやる。しかし、カリトスがメキシコから大切に持ってきた母の手紙に書いてあった住所は、不法移民が身元を隠すためによく使う私書箱だった…

アドリアン・アロンソは、確かに巧い。『レジェンド・オブ・ゾロ』の重要な役に選ばれただけのことはある。この映画では、母役のケイト・デル・カスティーリョを差し置いて一番にクレジットされる。堂々たる主演だ。メキシコの俳優なので、出演機会がアメリカの子役ほど多くはなかったのが残念だ。他には、初めて映画に出た『イノセント・ボイス 12歳の戦場』でチラと顔を見せている。


あらすじ

以下、スペイン語は黒字、英語は青字で分けて示す。映画の冒頭のクレジットの部分。アメリカにいる母と、メキシコに残された息子カリトスの朝起きてからの行動が、交互に、ワンショットずつ紹介されていく。2人の様子が簡単に分かり、よくできている。まず、母が起き(1枚目の写真)、次にカリトスが起きる(2枚目の写真)。アメリカでは、母がベッド・メイキング。壁には、自分と赤ちゃんのカリトス、祖母と最近のカリトスなど3枚の大切な写真が貼ってある(3枚目の写真)。カリトスは、外で頭から水を被っている(4枚目の写真)。お互いの朝食のシーンでは、カリトスが同居している祖母の病気がかなり重いことが分かる。病名は示されないが、末期の肺癌であろう。そして、カレンダーのシーン。母のアパートでは、日曜の欄にカリトスと書かれ、今日18日の「カリトス。誕生日」と書かれた欄に、丸を描く(5枚目の写真)。カリトスのカレンダーには電話の絵と「ママ」と書いてあり、今日は特別なのでそこに×印を付けている(6枚目の写真)。
  
  
  
  
  
  

朝10時ちょうど、いつもの公衆電話から母が電話をかける(1枚目の写真)。かける先も公衆電話で、電話の前でカリトスが待っていて、すぐに取る(2枚目の写真)。「カリトス?」。「ママ!」。「お誕生日おめでとう、坊や! 声を聴かせてちょうだい」。「お祖母ちゃんが、すぐヒゲが生えるって。9歳だよ」。「プレゼント、届いた?」。「もう、履いてるよ」。「他にもあるわよ」。「何なの?」。「誕生日パーティのお楽しみ」。その後で、カリトスが言い出す。「僕、いつでもロスに行けるよ。英語だってしゃべれる」。「必死で働いてるから、あとちょっとの辛抱」。「いつも、そう言うけど…」(3枚目の写真)。「でも、ほんとにもうすぐなの」。「もうすぐって、いつなの?」。仕方なく、母は本当のところを打ち明ける。「書類をもらうのが難しくて。弁護士に頼むお金なんてないし」。「呼べないなら帰って来てよ。4年は長すぎる」。その後、カリトスが、「そこ、どんな所なの?」と訊く。「知ってるんじゃなかった?」。「いいから話してよ」。「バス停のそばの公衆電話」。「ピザの店、まだある?」。「ええ、あるわ。それから、毎週使ってるコインランドリーも。もう1つ、いい店があるの」。「何?」。「パーティ用品の専門店」。「壁に、絵が描いてある?」。「ええ、あるわ」。カリトスの頭の中に、ロスの街角の風景がイメージされる(4枚目の写真)。これは重要な伏線となる。
  
  
  
  

祖母の家では、盛大な誕生日パーティが開かれている。そこには、母から贈られた伝統的なお菓子人形もある。等身大の男の人形で、中にはキャンデー類が詰まっている。それを吊るしておいて、目隠しをしたカリトスが叩き壊し、中から出てきたお菓子をみんなで分けるのだ(1枚目の写真)。しかし、このパーティには予期せぬ客もあった。カリトスを部屋に連れ込み、いきなり「ホセフィナと俺は、お前の叔父と叔母だ」と言い出す。「近所の人だ。家族じゃない」。「お前のパパは俺の兄貴だ」。「パパなんか いない」。「いるんだ! 名はオスカル。アメリカに住んでる。トゥーソンって町にな」(2枚目の写真)。これは、カリトスにはショックだった。みんなが帰った後、カリトスは、祖母に「どうして、パパのこと黙ってたの?」と訊く。「ママはね、まだ小さ過ぎるからと…」。そう言えば、さっきの叔父は、母が当分帰らないとも話していた。そのことについてカリトスは「戻る気あるの?」と泣きながら尋ねる(3枚目の写真)。祖母には、「泣かないの。カリトス、お前はレイエスの一族。レイエスの一族は強いの」としか言いようがない。
  
  
  

翌、月曜日。早朝4時半に起きて、同居しているもう一人の女性と働きに出かける母。因みに、こんなに早起きなのは、郊外の安い部屋に泊まっているため、通勤時間がかかるからだ。まず、目覚まし代りのメキシコ人向けのラジオ番組が面白い。「お早う! 目覚しに使ってる人、起きて」。そして「起きて! 起きて!」と10回くらいくり返す。「起きてる? 働きに、行かなくちゃ!」「そのために、この国に来たんだろ!  働けよ!」。まだ外は真っ暗。近くのバス停まで歩いてバスに乗る(1枚目の写真)。ラジオのジョッキーの辛口のトークが、画面の背後に流れる。「最初のニュースは、例のシュワ公が… あの野郎だ… また、拒否しやがった… 250万人もいる不法入国者が自由に働けるという法案をだ!」「ウチの州の知事は、法案は通さないと ほざいてやがる。 『公共の安全を脅かす』 からだとさ。自分こそ脅威のくせに!」「何様のつもりだ? 俺達より遠くから来た移民のくせして。この役立たず! スカ野郎!」「よく注意しなよ。奴には近寄るな。オートバイで轢き殺されるぞ!」。随分、失礼な内容だが、この背景には、シュワルツネッガーがカリフォルニア州知事を務めていた最初の頃は、メキシコ移民に不寛容だったという事実がある。後半には立場を一変させるが、この映画が作られた時点では、移民からは、こういう目で見られていたのであろう。2人が向かった先は、厳重に安全管理された高級住宅地(2枚目の写真)。入口には、「私有地・不法侵入禁止・違反者は告訴」と大きく書かれ、「治安上、監視カメラで常時撮影」とも記されている。左に写っている警備員パコは、カリトスの母に思いを寄せている優しいメキシコ人だ。もちろん、不法労働者ではない。
  
  

メキシコでは、カリトスが、いつも通り、知り合いのおばさんの事務所にアルバイトに行く。おばさんは、アメリカへの密入国の斡旋業者で、国境越え2000ドル、仕事の斡旋付き2500ドルで請け負っている。英語が達者なカリトスは、英語の話せないおばさんにとって重宝な存在だ。ちょうどその日、アメリカ国籍を持つメキシコ系のカップルがやってきて、「今日は。あなた、カルメン?」と訊く。おばさんは、「『カルメンさん』だよ。失礼しちゃうね」。最初から印象が悪い。女性が英語で訊く。「兄と私は合法的なアメリカ市民で、アメリカから来てる。英語、話せる?」。カリトスが応対する。女性:「訊いてちょうだい。越境の仕事、手伝えるかって?」。訳してもらわずとも何をしに来たか分かったおばさんは、「『失せろ』 って、言っとくれ」。さすがにそのまま訳せないので、「仕事は、ないそうです」と言うカリトス。女性:「ちゃんと話したの? この人、分かってるの?」。おばさんの方は、「メキシコ系のくせに、言葉も話せないなんて!」とカリトスに話しかける(1枚目の写真)。女性:「何て言ったの? 正確に何て?」。カリトス:「出てって」。女性は、帰り際、「もし気が変わったら、ここに電話してくれる?」とカリトスに名刺を渡して出て行く(2枚目の写真)。昨日がカリトスの誕生日だと知っているおばさんは、誰もいなくなると、「ねえ、カリトス、欲しいものを お言い」と訊く。カリトスの希望はいつもお金。「何を企んでるか分かってるわよ! 国境を越えたいんだろ? どうかしてるよ! どんなに、危険か分かってるの?」。「お金あるよ」。「そんなに、あげてないわよ」。「毎月ママが送ってくれるお金、貯めてるんだ。1200ドルあるよ。値引きしてもらえない?」。「ダメ、ダメ。ママやお祖母ちゃんと約束したのよ。ここで 働いてるとバレたら、髪の毛むしられちゃう。絶対にダメ」。
  
  

翌日、火曜日の朝、カリトスが朝起き、「紅茶がいい? それとも、ココア?」と祖母のベッドに行くと返事がない。祖母は冷たくなっていた。涙にくれるカリトス。もう身寄りはないのだ。カリトスは、祖母の遺体を前に、イスに座って考える(1枚目の写真)。そして、1人でアメリカに行こうと決心する。母から来た手紙の「差出人の住所」を切り抜き、失くさないように、シャツの裏に安全ピンで止める(2枚目の写真)。ここで、短い独白が入る。「僕は、ママを見つけに行く。忘れられちゃう前に」。そして、カレンダーを見ながら、「ママが心配しないよう、日曜までに着けますように」と呟く(3枚目の写真)。そのためには、6日目の朝10時前までにロスに着いていないといけない。
  
  
  

母は、お金を稼ぐため、1日に2軒を掛け持ちしている。午前中の家のマダムは、実に意地悪で、突然余分な仕事を押し付けて困らせる。住宅地の警備員のパコに、手に持っている本を「それ、何?」と訊かれる。「市民権取得試験の本。アメリカの歴史なんて知らないもの」。その時のパコの返事が傑作。「簡単だよ。インディアン虐め。次が 奴隷虐め。今は、メキシコ人を虐めてる」。日本人には考えつかない発想だ。一方のカリトス、アメリカへの密入国を、いつものおばさんには頼めないので、もらった名刺を頼りに、日曜に来たアメリカ国籍のカップルを訪ねる。素人なので如何にも頼りなげだ。国境が近付くと、「今、払ってくれる?」と支払いを要求される。女性に見せられた密入国の方法は、後部座席の下に作られた小さな空間。そこに入れというのだ。「やるよ」と言って、体を押し入れるカリトス(1枚目の写真)。ぎりぎり一杯の大きさだ。外は熱暑で、クーラーが壊れているので、「暑いよ!」。国境の前に出来た長い車の列。気の弱い男性が、「なんて暑いんだ。あの子、気絶するぞ」。気の強い女性の方は、「頑張るわよ」。いよいよ順番が回ってくる。変に下手に出た物腰が疑われ、車から荷物ごと下ろされ、徹底的なチェックを受ける(2枚目の写真)。幸い見つからずに済み、OKが出て車を出しかけたところで、停車を命じられる。アメリカ国内での駐車違反の罰金が未払いだったことが判明したのだ。そこはお役所仕事。「今、払わせてもらえません?」と頼んでも、「エル・パソに安モーテルがある。自動車局から2ブロック先。そこで、罰金を払いなさい。自動車局は朝8時から」と拒否され、車は罰金を払ってくるまで没収されてしまう〔国境を出た所がエル・パソ〕。「窓を閉めて、ドアをロック。さあ、降りて」。中は蒸し風呂だ。カリトスは地獄のような環境で、「み心の 天に成る如く、地にも なさせたまえ。罪を犯す者を、我らが赦す如く、我らの罪をも赦したまえ。我らを試みに遭わせず、悪より救い出したまえ。アーメン」と祈る。狭い真っ暗な空間で、小さな穴から目の部分にだけ光が入る。(3枚目の写真)。
  
  
  

夜になって、カリトスは車から脱け出す。リュックを引き出す際に、中に入れてあった財布が地面に落ちてしまうが、それに気付かないままエル・パソのバス・センターまで歩いて行く。距離にして5キロ以下なので、歩けない距離ではないが、どうやって場所が分かったのかは不明だ。朝一番にバス乗り場に現れたカリトスは、切符を買おうとするが、子供には売れないと断られる(1枚目の写真)。どうしようか迷っていると、警官が入ってきたので慌ててトイレに隠れる。そこで出会ったチンピラに、「助けてくれない?」と頼む。「何をだ?」。「ロサンジェルス行きの切符。お金は持ってる」。OKはしてくれたが、いざお金を出そうとすると、ない(2枚目の写真)。ターミナル中を捜すが見つからない。車に忘れてきたんだと思いつき、「車、持ってる?」と訊く。「もう、付き合えん」。「100ドルあげる」。その言葉につられて駐車場まで連れて行ったチンピラ。ところが、車は引き取られてもうなくなっている。途方にくれるカリトス。金を要求するチンピラ。ないと分かると、「そんなら教えてやる。体で、払うんだな! それなら できるだろ」(3枚目の写真)。「タダで、載せてもらおうなんて甘かない」。連れて行かれた先は、売春婦のたむろする一角。そこの仕切り人と交渉し、カリトスを100ドリで売り渡す。車から引きずり下ろされ、口の中を調べられるカリトス(4枚目の写真)。違法労働か、臓器ドナーか、児童買春か?
  
  
  
  

この危機を救ったのは、メキシコ人の同胞に救いの手を差し伸べている女性。たまたまその場を通りかかり、代りにお金を払ってカリトスを引き取ってやる(1枚目の写真)。仕切り人は、「レイナ、世話焼きだな!」と笑っている。この女性、ちょっとした「顔」なのだ。一方、ロスでは、昨日無理難題を言われて断った母が、仕事が終わった後に「来なくて、いいわ」と通告される。仕方なく、「では、お給料をいただきます」と言うと、「払う気なんかない」。「でも、3日間働きました。払って下さい」。「どうするつもり? 警察に電話する?」と電話を差し出す(2枚目の写真)。「あんた、確か不法滞在者よね? 電話は危険かも」。豪邸に住みながら、何と陰険で卑怯な女だろう。一方の、カリトス。助けてくれたレイナに、「バスに、乗せてもらえます?」と頼むが、「ダメ。今日みたいなコトがあった後じゃ、1人で旅するには小さ過ぎる」と断られる。しかし、「日曜までに着かないと」の言葉に、家に匿っている居候10名程度のうちのボス的存在の男に、ロスまで連れて行かせることにする。
  
  

この男は、ロスに行く途中、ついでに、不法滞在者3人をトマト農園まで運ぶ。助手席に乗っているカリトスを見て、そのうちの1人が、「こいつは?」と訊く。「ロスまで連れていく」。「まだ仕事があるだろ!」。「だから、一緒に来る」。「農園に? 冗談だろ?」。「いいから、乗れ! 嫌なら乗らんでいい」。しぶしぶ乗り込む男(1枚目の写真)。なぜ、この男がこうも嫌がるからよく分からない。ここから、ユーモラスな歌がバックグランドに流れる。「♪奴は、空からやってきた。飛行機に乗らず」「♪クリプトン星から宇宙船で」「♪だから、もちろんアメ公じゃない」「♪悲しいことに、スーパーマンは密入国者」「♪奴は、新聞記者。俺だって、そう」「♪徴兵だって行ったことがない」「♪奴は、金髪碧眼で体型も完璧」「♪俺は茶髪で肥って ちんちくりん」「♪奴は、税金払わず、ポリ公の真似事」「♪免許もなしに空 飛んでる」「♪どうして 奴だけ特別扱い」「♪社会保障も持たず、永住許可証もないのに」「♪免許証なしで、どうして飛べるんだ」「♪しかも、スーパーマンなんて呼ばれてる」「♪スーパーマンなんか追い出そう」「♪クリプトン星に追い返してやれ」「♪入国管理局は何してる」「♪俺たちばっかに厳しくしやがって」。再度コメントするが、日本人にはこうした発想は生まれて来ない。この歌の最中、違法労働者は、汗まみれ、泥まみれになってトマトを収穫している。カリトスの手も真っ黒だ(2枚目の写真)。車で待っていろと言われたカリトスだが、「働きたいんだ」と手伝っていたのだ。その時、入管の手入れがあり、労働者が次から次に拘束される。助かったのは、カリトスと、例の男の2人だけ。カリトスが、「僕たち、どうなるの?」と訊く。「『僕たち』? 知ったことか。俺は一人で行く」とすげない。どうしたらいいのか見当もつかないので、すがるように男の後を追って行くカリトス(3枚目の写真)。
  
  
  

道路を歩きながら、車を停めようとするが、汚い姿なので、なかなか停まってくれない。ようやく停まったミニ・バスには、メキシコの演奏団5人が乗っている。自分が停めたので、カリトスを置いてきぼりにして1人で乗り込む男。しかし、演奏団が停まったのはカリトスのためだった。ドアが再び開けられ、乗り込んだカリトスは、「今日は。僕カルロス・レイアス」とにこやかに自己紹介する〔カリトスは愛称〕。「何で、そんなに汚いんだい?」と訊かれ、「入管に捕まりかけて」と答える。「大丈夫か?」。「全然、何とも。国境越えの方が大変だった。でも、何でも我慢できるんだ。ママのためなら何でもする。会いに行くんだ」。この言葉にほろりとした楽団は、「歌で、元気付けてやろうぜ」とカリトスに歌を捧げてくれる(1枚目の写真)。カリトスは嬉しいのだが、一緒に乗った男(エンリケ)が無視されているので、カリトスも何となく気が咎める。ふてくされたエンリケと、照れ笑いのカリトスのツーショットが面白い(2枚目の写真)。
  
  

陽気な楽団員と別れ、トゥーソンで降ろされる2人。そこは、偶然、まだ見ぬ父がいると教えられた町だった。ミニバスを降りて、「僕たち、どこへ?」と訊くカリトスに、エンリケは、「もう沢山だ! さあ、おさらばだ! まとわりつくな! 失せろ!」と突き放す。しかし、一人になったカリトスが、地元の不良にリュックを盗まれそうになると、助けてやる。そして、「どこに、行くつもりなんだ?」と訊く。「日曜の朝には、ロスに着いてないと。ヒッチハイクする」。それを聞いて、警察に行けと勧める。「戻るもんか!」。「俺には、チビ助の面倒まで見きれん。そうでなくても、俺は大変なんだ」。「僕はチビ助じゃない。9歳だ!」(1枚目の写真)。そして、「2人で仕事探そうよ。バス代さえ稼げばいい」と提案する。「ならやってみろ。『やあ、僕9歳です。仕事、ありますか?』。誰が、お前みたいなチビを雇う? 悪かった。9歳の大人だったな」。カリトスは、さっそく食堂に入っていき、交渉成立。意気揚々と戻って来る(2枚目の写真)。「やった。条件だって悪くない。1人分で2人」。「何、考えてる? 半人前の給料だ? 俺が自分でやる」。しかし、店の主人は厳しかった。「他の店を当たるんだな。1人分の仕事しかない。そう言ったんだが、お前さんもと頼まれた。俺は、どっちでも構わん。ただ、この町じゃ他に仕事はない」。カリトスにも、「ねえ、やろうよ。寝るトコもあるし」と言われて、エンリケは渋々同意する。
  
  

従業員用としては立派なツインルームに収まった2人。夜、ベッドに横になり、開いた窓から見える月にじっと目をやるカリトス(1枚目の写真)。そして、おもむろにエンリケに話しかける。「ママが言ってた。『会い損ねたら月を見なさい』って。ママも、同じ月を見てる。だから、身近に感じて悲しくなくなる」(2枚目の写真)。映画の題名にもなっている重要な台詞だ。ひとしきり泣いた後、「打ち明けていい?」と訊く。「寝るんだ、カリトス」。「パパは、この町にいる」。その言葉にハッとするエンリケ。邪魔なカリトスを押し付ける、いい機会だ。「なぜ、電話しない?」。「知らない人だから。会ったこと、ないんだ」。「なあ、会いたくないか?」。「何のため? 9年も放っといて」。「人は変わる、カリトス。パパを持てるかもな」。この台詞は、後でもう一度出てくる。
  
  

そして、翌 金曜日。エンリケのお膳立てで、父の勤めるスーパーに連れて行かれたカリトス。売り場で待っていると、1人の男が近付いてくる。「カリトスなのか?」。スーパー内のファーストフードで昼食をとる2人。同じタイミングでバーガーのパンを外し、トマトをつまみ出し、ケチャップをかけてかぶりつく。如何にも父子といった感じ。「ママは、どこに?」と訊かれ、「ロサンゼルス」(1枚目の写真)。そして、「連れてってくれない?」と頼む。「ママと一緒じゃないのか?」。「一人だよ」。「ロスは長いのか?」。「4年」。「4年も? そりゃ、ずい分長いな」。「あんたほどじゃない」。「会ったこともないだろ」。カリトスの揶揄と、それに対する気のない返事だ。「でも、もしロスに連れてってくれれば、ママと やり直せるかも」。「絶対、許してもらえない」。「許してくれるよ。知ってるんだ」。「お前、ママに似てるな。ロサリオと俺は最高だった。とても仲が良かった」。「で、連れてってくれる?」。しばらく黙っていて、「いいとも」と答える父。それを聞いて、満面の笑みを浮かべるカリトス(2枚目の写真)。嬉しさのあまり、カリトスは2人分の食事代を払う。しかし、夜になり約束の時間が過ぎても父は現われない。「なあ、相棒。もちっと待ってやれ。きっと来る。いいな?」とエンリケが慰める(3枚目の写真)。しかし、本質的に腐ったダメ親爺は、遂に現れなかった。外に出て、「僕は、ママにもパパにも嫌われてる。あんたが正しかった。警察に連れてってよ。国に帰るから」と自暴自棄になるカリトス。そして、思わずエンリケを抱き締める。こうなると、エンリケとしても放っておけなくて、仕方なく、一緒にロス行きのバスに乗り込む。
  
  
  
  

一方、ロスでは、母が、友達に勧められて警備員のパコと結婚することを急に決めていた。カリトスを早くロスに呼ぶためだ。そして、土曜の朝、カリトスとエンリケはロスに着く。さっそく、大切に持ってきた住所に行ってみると、そこは私書箱の店だった。「畜生! もう、どうにもならん!」と両手を挙げるエンリケ(1枚目の写真)。カリトスに、「これは私書箱だ。小さな箱が見えるだろ? みんな使ってる。入管にバレないから」と説明してやる。そして、「なあ、坊主。電話番号かほんとの住所がなけりゃ、無理だ」と話す(2枚目の写真)。少し考えていたカリトスは、「そうだ、やった!」と言い出す。「ママは、公衆電話を使うから、待ってりゃいい」「明日の朝、ママは電話する」。「そうか、凄いぞ。ロスには、1個しか電話がないから朝めし前だな!」。恥ずかしそうな顔になるカリトス。しかし、「電話の場所、知ってんのか?」と訊かれると、「交差点の角にドミノ・ピザがあって、バス停に、コイン・ランドリーに、パーティ用品の店がある。それに壁画だ! やれるよ」と前向きになる(3枚目の写真)。しかし、やってみると、そんなに甘くはない。似たような場所はあっても、全部が揃う場所は見つからない。
  
  
  

土曜の夜。母は「結婚する以上、愛してないと…」と言って、パコとの結婚をためらっている。そこに、メキシコから緊急の電話が入る。密入国斡旋のおばさんが、カリトスの祖母が亡くなり、カリトスはアメリカに密入国したらしいと告げる。心配して動転する母には、「いい、ロサリオ、お願い。どうか、そこを離れないで」と説得する。母:「ここで、ただ待ってるだけなんて」(1枚目の写真)。おばさん:「あの子を、誰も、国境で見てないの。まだ、途中なのよ」。「何か 起きたかも」。「そんな、滅相もない! お願い、ロサリオ、時間をちょうだい」。一方、同じ頃、捜し疲れて公園のベンチで横になるカリトスとエンリケ。「打ち明けていい?」とカリトス。「またか? やめた方がいい。パパの話をして、どうなった?」。「『人は変わる』って、言ったよね」(2枚目の写真)。「旅に出た時、僕、ママに愛されてないと思ってた。でも、間違ってた」。父は変わらなかったが、カリトスは変わったのだ。そして、体を起こすと、最後まで大事に持っていたコマをエンリケの手に置き、「いろいろ、ありがとう」と微笑む(3枚目の写真)。エンリケは、それを大切に胸にしまう。カリトスは、さらに、「もうママには会えない、よね?」と訊く。「何を言う。見つかるさ。あきらめるために来たんじゃないだろ?」「ママは、何時に電話を?」。「朝10時ちょうど」。「じゃあ、早起きして探そう」。一方、母の方は… 「何もしないで いるなんて。もう何時間も 連絡がない」「万一、国境を越えて ここまで来られても、どこに行くの? 住所だって知らないのに」「悪いのは、私。すぐ発つわ」と帰国を決意する。そして、日曜の早朝、パコとバスステーションに向かう。一旦はバスに乗り込むが、窓越しに、公衆電話から電話をかける少年を見ていてハッと気付く(4枚目の写真)。
  
  
  
  

エンリケが朝食を買いに行っている間、カリトスは小公園のベンチで一人寝ている。その姿に目を留めたパトカーが停車し、警官2人が降りてくる(1枚目の写真)。「おい、坊や、ここで何してる?」。「友だちと、一緒なんだ」。「あの男か?」とこちらに向かってくるエンリケを指す。カリトスはエンリケを庇い首を振る。「一人なんだろ」と言われ、連行される。逃げようと暴れるが逃げられない(2枚目の写真)。それを見たエンリケは、覚悟を決め、「おい! 離してやれ!」と叫ぶと、持っていた飲み物を警官に投げつけた(3枚目の写真)。公務執行妨害(?)で逮捕されるエンリケ。彼は、カリトスに向かって「逃げろ! 走れ!」と叫ぶ。カリトスは、エンリケを悲しそうに見てから、全力で逃げる。それを見るエンリケの顔に浮かぶ満足そうな表情。彼が、これほど良い人間に変わるとは意外だった。
  
  
  

逃げ切ったカリトスが、涙を拭って見上げると、既視感に襲われる。母から聞いていた目印が次々と見えてくる(1枚目の写真)。ここが、あの場所なんだ! 信号の向こう側には公衆電話があり、そこには母らしい女性が立っている(2枚目の写真)。思わず、「ママ!」と叫ぶカリトス。声に気付いた母がこちらを見て笑い、交差点の反対側ではカリトスが大喜びで手を振る(3枚目の写真)。なかなか信号が青にならない。母と子だけの素晴らしい愛の空間だ。半泣きのカリトスが何とも愛おしい(4枚目の写真)。映画のエンドクレジットで流れる歌の最後の部分。「♪希望を失いかけた、その時」「♪ある朝、偶然に」「♪2人の眼差しが、出逢う」が、この情景を見事に表している。
  
  
  
  


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